同じ声優が演じているとは思えない――。
前野智昭(まえの ともあき)さんの出演作を何本か並べると、そんな感想を抱くことがあります。『はたらく細胞』の寡黙でクールな白血球。『うたの☆プリンスさまっ♪』の艶やかな貴族カミュ。『弱虫ペダル』の熱い福富寿一。声のトーンも温度もまるで違うのに、どれも確かに前野さんの声なのです。
低音から高音まで自在に操り、男性向け作品でも女性向け作品でも主役級を任される。その振り幅の広さこそ、前野智昭という声優の最大の武器です。
ゲームがきっかけで声優を志した少年時代
前野智昭さんは1982年5月26日、茨城県下妻市の生まれです。所属は声優業界の大手アーツビジョン。
声優を志したきっかけは、小学2年生の頃に姉と一緒に観ていた『ドラゴンボール』だったといいます。さらに中学1年生のときに『ときめきメモリアル』をプレイしたことで、声優という仕事を本格的に意識するようになりました。アニメとゲーム、両方への愛着がキャリアの原点にあるというのは、なんとも現代的で親しみの持てるエピソードです。
なお私生活では、同じく人気声優の小松未可子さんと結婚しています。声優同士、互いの仕事の難しさを理解し合える関係性が、長く安定した活動を支えているのでしょう。
低音から高音まで——声の引き出しの多さ
前野智昭さんの演技を語るうえで欠かせないのが、声の幅の広さです。
クールな低音キャラから、優しさのにじむ中音域、明るい高音キャラまで、役柄に応じて声を変化させる技術が高いレベルで身についています。だからこそ、寡黙な白血球と、艶やかなカミュと、熱血の福富寿一を同時期に演じ分けられるのです。
そしてもう一つ、彼が見せるのは内面を繊細に表現する力です。寡黙なキャラクターでも、内に秘めた感情を声のトーンや呼吸の取り方で伝える。だから視聴者は、多くを語らないキャラクターの心情まで自然と読み取れるのです。
『はたらく細胞』白血球——国民的代表作
前野智昭さんを広く知らしめた代表作の一つが、清水茜さん原作の『はたらく細胞』の白血球(好中球)役です。
寡黙でクールでありながら、ヒロインの赤血球を守る優しさを持つキャラクター。前野さんは低めの声で、その静かな強さと優しさを繊細に表現しました。『はたらく細胞』は体の中の細胞を擬人化した教育的な要素も持つ作品で、幅広い世代に愛されています。白血球役は、その人気を支える重要な存在です。
女性向け作品でも確固たる地位——カミュと山姥切国広
前野智昭さんは、女性ファンからの支持も厚い声優です。
『うたの☆プリンスさまっ♪』のカミュ役では、クールでミステリアスな貴族系キャラクターを、艶のある声で演じました。「うたプリ」シリーズは女性ファンの熱烈な支持を集める人気作で、カミュは彼の代表作の一つです。
また、刀剣擬人化ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』の山姥切国広役も外せません。劣等感を抱えながらも前向きに戦うキャラクターを、繊細な演技で表現しています。舞台化・アニメ化と幅広く展開される人気タイトルで、長く愛され続けている役です。
吹き替えからゲームまで、ジャンルを超える活動
前野智昭さんの活動は、アニメだけにとどまりません。
- 『図書館戦争』堂上篤……有川浩原作、厳しくも優しい上官役
- 『弱虫ペダル』福富寿一
- ゲーム『THE KING OF FIGHTERS XIV』草薙京
- 映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ハン・ソロ(吹き替え)
特にハン・ソロの吹き替えを担当した経験は、洋画にも対応できる声優としての実力を示しています。アニメ、ゲーム、洋画吹き替えと領域を超えて活動することで、表現の幅は広がり続けています。
筆者が思う、前野智昭の「両立力」
個人的に前野智昭さんがすごいと思うのは、男性的な強さと、繊細な内面表現を両立できるところです。
マッチョな強さだけのキャラクターも、純粋に繊細なだけのキャラクターも演じられる声優はいます。けれど、その両方を同時に持つ複雑なキャラクターを説得力をもって演じられる人は限られます。堂上篤も、白血球も、山姥切国広も――いずれも強さと繊細さを併せ持つ役です。これらを自然に演じられることこそ、前野さんの真価だと感じます。
前野智昭についてよくある疑問
結婚相手の小松未可子さんは?
小松未可子さんも人気声優の一人で、アニメ・ゲーム・歌手活動と幅広く活躍しています。夫婦そろって声優業界で重要なポジションを担っています。
YouTubeもやっている?
「前野智昭ちゃんねる」というYouTubeチャンネルを開設しています。声優としての一面とは違う、彼のプライベート寄りの活動を楽しめる場としてファンに親しまれています。
最新の出演作を知るには?
所属事務所「アーツビジョン」の公式サイトや、本人の公式SNS(X)で確認できます。
おわりに
前野智昭さんは、低音から高音まで、男性向けから女性向けまで、ジャンルと声の壁を軽々と超えていく声優です。
もし彼の演技を体感したいなら、まずは『はたらく細胞』の白血球から。寡黙でクールな中ににじむ優しさを聴けば、彼が「声の引き出しの多い声優」と呼ばれる理由が、すぐに分かるはずです。


コメント